Highlightsみどころ

藤田の画業の
全貌を解き明かす
大回顧展

明治半ばの日本で生まれ、80年を超える人生の約半分をフランスで暮らし、晩年にはフランス国籍を取得して欧州の土となった画家・藤田嗣治(レオナール・フジタ、1886-1968)。2018年は、エコール・ド・パリの寵児のひとりであり、太平洋戦争期の作戦記録画でも知られる藤田が世を去って50年目にあたります。この節目に、日本はもとよりフランスを中心とした欧米の主要な美術館の協力を得て、画業の全貌を展覧する大回顧展を開催します。
本展覧会は、「風景画」「肖像画」「裸婦」「宗教画」などのテーマを設けて、最新の研究成果も盛り込みながら、藤田芸術をとらえ直そうとする試みです。藤田の代名詞ともいえる「乳白色の下地」による裸婦の代表作が一堂に会するだけでなく、初来日となる作品やこれまで紹介されることが少なかった作品も展示されるなど、見どころが満載の展覧会です。

1質・量ともに史上最大級の展覧会です

没後長らく画業を通覧する展覧会が開催されることの少ない画家でしたが、2006年頃からは大小の展覧会が続いています。そのような中、特に今回は没後50年にふさわしく、史上最大級の規模で、精選された作品100点以上が一堂に展示されます。

2これまでにないほどのスケールで、欧米の主要な美術館から作品が来日します

パリのポンピドゥー・センター、パリ市立近代美術館、べルギー王立美術館、ジュネーヴのプティ・パレ美術館、アメリカのシカゴ美術館など、 欧米の主要な美術館から、初来日作品も含め約20点の代表作がこの機に集います。

3藤田の代名詞ともいえる「乳白色の下地」による裸婦10点以上が一堂に会します

数年前に修復を終えた大原美術館の《舞踏会の前》や、東京国立近代美術館の《五人の裸婦》など国内の代表作に加え、ポンピドゥー・センターやプティ・パレ美術館など海外からも、「乳白色の下地」による裸婦、なかでも最盛期1920年代の作品が集います。

4藤田が上野に還って来ます

東京美術学校(現・東京藝術大学美術学部)で学び、昭和前期に日本に帰国した際に作品展示の機会を重ねた東京都美術館のある上野は、藤田にとって、制作者としての原点といえます。今回は、藤田の回顧展が上野、東京都美術館で開催される初めての機会となります。

《カフェ》
Photo © Centre Pompidou, MNAM-CCI, Dist. RMN-Grand Palais / Philippe Migeat / distributed by AMF
© Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017 E2833

《カフェ》

  • 1949年 油彩・カンヴァス
  • 76.0×64.0cm
  • ポンピドゥー・センター
    (フランス・パリ)蔵

1949年3月に日本を離れた藤田が、その後滞在したニューヨークで制作した作品。女性の背後の窓越しに、カフェ「ラ・プティット・マドレーヌ」のあるパリ風の街角が見える。黒く細い輪郭線による描写は対象の三次元性を強調しているが、同時に女性のドレス、鞄、紳士の帽子等の色彩としての黒の魅力も際立っている。画家手製の額縁はカフェにふさわしいモティーフで飾られている。

二人の少女
Photo: Studio Monique Bernaz, Genève
© Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017 E2833

《二人の少女》

  • 1918年 油彩・カンヴァス
  • 81.0×65.0cm
  • プティ・パレ美術館
    (スイス・ジュネーヴ)蔵

少女が2人横に並び正面を向いた絵を、藤田は 1910年代末にいくつか描いている。黒い瞳や小さな鼻と口、広い額などを特徴とするが、年頃や髪形などの違いから、特定のモデルの存在が考えられる。背景はモティーフを描き込まず、色彩とマチエールを強調した筆触で埋められており、1920年代前半の「乳白色の下地」へと向かうプロセスを示している。

私の部屋、目覚まし時計のある静物
Photo © Centre Pompidou, MNAM-CCI, Dist. RMN-Grand Palais / Jean-Claude Planchet / distributed by AMF
© Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017 E2833

《私の部屋、目覚まし時計のある静物》

  • 1921年 油彩・カンヴァス
  • 130.0×97.0cm
  • ポンピドゥー・センター
    (フランス・パリ)蔵

独特の白い下地に細い墨の線で描くという技法によって完成した初めての静物画。1921年のサロン・ドートンヌに出品され、翌年には日本の帝展にも送られて母国での本格的なデビュー作となった。モンパルナス、ドランブル通りのアトリエ内に私物を配置して描いた。アトリエの主人を描かずに、愛用品のみで画家自身を象徴する意図を感じさせる。

自画像
© Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017 E2833

《自画像》

  • 1929年 油彩・カンヴァス
  • 61.0×50.2cm
  • 東京国立近代美術館蔵

1920年代半ば、パリでの絶頂期を迎えた藤田は、アトリエでの自画像をひんぱんに描いている。おかっぱ頭に丸眼鏡、ちょび髭、ピアスといった個性的な風貌とともに、日本の伝統を生かし、独自の乳白色地によるスタイルを生み出した画家像を演出するイメージ戦略をうかがわせる。16年ぶりの一時帰国を果たした1929年の第10回帝展に出品された。

日本初出品
エミリー・クレイン=シャドボーンの肖像
© The Art Institute of Chicago / Art Resource, NY
© Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017 E2833

《エミリー・クレイン=シャドボーンの肖像》

  • 1922年 油彩、銀箔・カンヴァス
  • 89.5×146.1cm
  • シカゴ美術館(アメリカ)蔵

藤田の1920年代の人物表現の中でも代表作のひとつ。衣装やソファーの模様や触感が緻密に描写され、背景は銀箔で覆われている。藤田は20年代に金箔をしばしば用いたが、銀箔が確認できるのは本作のみである。モデルとなった注文主は、当時パリに暮らしていたシカゴ出身の富裕なアメリカ人女性。晩年に自らの収集作品を地元の美術館に寄贈した。

タピスリーの裸婦
© Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017 E2833

《タピスリーの裸婦》

  • 1923年 油彩・カンヴァス
  • 126.0×96.0cm
  • 京都国立近代美術館蔵

1920年代初期の裸婦像には、装飾的な綿布との対比により白い人肌の美を引き立たせた作品もある。本作では、裸婦もさることながら、彼の持ち前の描写力は背景の綿布にも向けられている。フランス更紗に典型的な、エキゾチックな草花模様を刷った「ジュイ布」を克明に描いている。1923年サロン・デ・テュイルリー出品作。

メキシコに於けるマドレーヌ
© Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017 E2833

《メキシコに於けるマドレーヌ》

  • 1934年 油彩・カンヴァス
  • 91.0×72.5cm
  • 京都国立近代美術館蔵

速筆で描かれ塗り残しも見えることから、現地で制作したような印象を与えるが、メキシコでの素描や写真をもとに帰国後に東京で制作された作品。モデルはパリからアメリカ大陸縦断の旅をともにしたマドレーヌ。藤田は「ヨーロッパと中央アメリカとの対照」をねらったものだと述べている。1934年第21回二科展で、帰国を記念した特別展示に並んだ1点。

アッツ島玉砕
© Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017 E2833

《アッツ島玉砕》

  • 1943年 油彩・カンヴァス
  • 193.5×259.5cm
  • 東京国立近代美術館蔵(無期限貸与作品)

1943年5月の北太平洋アリューシャン列島アッツ島での日米の戦闘を、写真と想像力をたよりに自らの意思で描いた作品。全景は三角形構図の組み合わせで表現された兵士で埋め尽くされ、ロマン主義以前の西洋の戦争画の研究と傾倒がうかがえる。1920年代後半以降、藤田が追求してきた大画面の群像表現のひとつの到達点といえる。1943年9月の国民総力決戦美術展に出品。

※戦争を主題にした絵画の総称として「戦争画」という広義の言葉がありますが、本展では、狭義の「作戦記録画」という言葉を使っています。「作戦記録画」は、日中戦争から太平洋戦争にかけて、日本の陸海軍 の依頼により画家が戦争を題材に描いた公式の戦争画です。
猫
© Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017 E2833

《争闘(猫)》

  • 1940年 油彩・カンヴァス
  • 81.0×100.0cm
  • 東京国立近代美術館蔵

猫を扱った藤田の作品の中で最もよく知られた作品。第二次世界大戦勃発後、ドイツ軍が迫るパリで描かれたもの。飛び上がる猫、うなり声を上げる猫、転げまわる猫など、14匹が様々な姿態を見せて格闘している。渦を巻いているような大胆な構図は、繊細な線描によって見事にまとめられている。帰国後、1940年初秋の第27回二科展に《争闘》のタイトルで出品された。

フルール河岸ノートル=ダム大聖堂
Photo © Centre Pompidou, MNAM-CCI, Dist. RMN-Grand Palais / Jacqueline Hyde / distributed by AMF
© Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017 E2833

《フルール河岸 ノートル=ダム大聖堂》

  • 1950年 油彩・カンヴァス
  • 38.0×46.0cm
  • ポンピドゥー・センター
    (フランス・パリ)蔵

フルール河岸はセーヌ川に浮かぶシテ島の東側にある通りで、古くから花の市場で賑わった場所。画面左、路地の奥にノートル=ダム大聖堂の尖塔が見える。この眺めは藤田のお気に入りで、同じ構図の作品を何点か残している。本作は制作の翌年に《私の部屋、目覚まし時計のある静物》、《カフェ》らとともにフランス国立近代美術館に寄贈された。

私の夢
© Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017 E2833

《私の夢》

  • 1947年 油彩・カンヴァス
  • 65.5×100.0cm
  • 新潟県立近代美術館・万代島美術館蔵

戦後、初めて発表された裸婦の図像は《眠れる女》(1931年)のマドレーヌ像から転用されている。擬人化された動物は1950年代、画家の重要なモティーフへと発展する。戦争責任問題で揺れる周囲をよそに、新天地での生活を夢見る藤田自身が裸婦の姿に投影されているかのようだ。1947年5月、東京都美術館開館20周年記念現代美術展覧会出品作。

礼拝
© Musée d' Art Moderne / Roger-Viollet
© Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017 E2833

《礼拝》

  • 1962-63年 油彩・カンヴァス
  • 114.0×143.0cm
  • パリ市立近代美術館(フランス)蔵

緻密な模様の衣をまとった聖母に対し、藤田は修道士の服装で妻の君代とともに祈りを捧げている。周囲には少女と動物たちが、画家の背後には前年に移住したパリ近郊の村ヴィリエ=ル=バクルの家が描かれている。「乳白色の下地」を用いながらも、絵具層の色の鮮やかさとコントラストが印象的。晩年の代表作であり、藤田芸術の集大成といえる。